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モノの価値を増幅させる「イケア効果」

妻が、実家からたまに送られてくる大量のジャガイモや玉ねぎを入れるカゴがほしい、と言うのでイケアにでかけ「これがいい!」と言ったのは木組みのカゴでした。


引用元:KNAGGLIG クナッグリグ ボックス – IKEA

ご存知の通り、イケアでは商品のほとんどが組み立て式になっています。商品が決まったら大きな倉庫に行き、組み立て前の商品を探し、自分でそれを持ち帰り、自分でそれを組み立てます。

今回、購入した木組みのカゴも組み立て式でした。組み立て自体はドライバでネジを回すだけという簡単な構造なのですが、ネジとネジ穴がきちんとあっていないのか、ネジを回すのがやたらきつい。これを4つ組み立てた後の右手はほとんど力が入らないほどでした。そのおかげもあってか、このカゴには異様な愛着が生まれました。

DIYでつくった家具に愛着がわく、家庭菜園でつくった野菜は美味しく感じる、自分の子どもはかわいい(これは違う?)など、何かしら自分の手が加わったモノは価値が向上する。これをマーケティング用語では「イケア効果」というそうです。

我が家で、もはや土曜日の朝食の定番となったホットケーキミックスでも、イケア効果の逸話があるようです。

今では身近な商品である「ホットケーキミックス」ですが、発売当初はあまり売れなかったそうです。当初のホットケーキミックスは、粉に水を混ぜて焼くだけのとても簡単なものでした。
「調理が簡単すぎるのが原因ではないか」と考え、ホットケーキミックスから卵と牛乳の成分を抜き、購入者が焼く前に卵と牛乳を混ぜるよう変えてみたところ、売れ行きが劇的に向上したそうです。ユーザーの手間を増やすことで、逆に手作りの楽しみや「自分で作った」という満足感を与えることができたのです。

イケアに組み立て式の家具が多いのは、おそらく人件費の削減と物流効率の最大化がメインだと思うのですが、これを狙っていたのであれば脱帽です。商品自体はまったく同じなのですが、組み立てを行うことで、単なる「売り場で売られていたモノ」から「自分でつくったモノ」へ変化します。

「自分でつくったモノ」の価値は、その商品の価値を大幅に増幅させる。

完成品を販売するのではなく、完成前に少しだけ手間をかけていただく。そうすることで、モノの価値は大きく向上するし、捨てづらくもなる。モノの価値を増幅させる最も簡単な方法は「商品の完成に自分が携わること」、メーカー側としては「完成までに所有者が関わることができる隙間を残しておく」こと。

あえて完成させない。

現代のユーザー心理に合致した、素晴らしい行動設計だと思います。

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